
前回は、終わった月の差異について「なぜ」をAIと一緒に掘り下げました。今回はその反対側、これから先の数字です。下期の見通し(フォーキャスト)を作るとき、AIをどう使えばよいのでしょうか。ポイントは、AIに数字を予測させるのではなく、見通しを支える「前提」の点検役になってもらうことです。
見通しの数字は、いくつもの前提を積み上げてできています。その前提を一覧にし、AIに「抜け」や「楽観的すぎる点」を指摘してもらい、確認すべき質問を整理します。数字を決めるのは、あくまで会社とFP&A担当者です。
見通しがずれる原因は、数字より「前提」にある
下期の見通し、各部門から集めた数字を足して出しました。でも上期は、見通しと実績が毎月ずれていて……。AIに予測してもらったほうが当たりますか?
ミサ、AIは会社の受注状況も、新製品の開発の進み具合も知らないんだ。それより、集めた数字の裏にある「前提」を一つずつ見直すほうが効くよ。
見通しの数字は、「新製品は11月に発売される」「主要顧客の発注は上期並み」といった前提の上に成り立っています。数字だけを見ていると、どの前提がずれたのかが分からず、毎月同じずれを繰り返してしまいます。
| 前提の種類 | 部門から届く形 | 点検のポイント |
|---|---|---|
| 販売数量 | 「月○○個」 | 上期の実績や、受注の積み上がりと合っているか |
| 販売単価 | 「価格改定なし」 | 値引きや原材料高による値上げの予定はないか |
| 新製品・新規案件 | 「11月から月○○万円」 | 発売日は確定か、初月から満額で売れる前提になっていないか |
| 費用・人員 | 「下期に2名採用」 | 採用の時期、入社までの費用の発生時期 |
| 為替など外部要因 | 書かれていないことが多い | 会社としてどの前提で置くか決まっているか |
まず「前提の一覧」を作る
AIに点検してもらう前に、見通しの前提を文章で書き出します。部門から届いた数字に、「この数字は何を前提にしていますか?」と一言添えて聞くだけでも、前提の一覧が集まります。
見通し合計は5.9億円。内訳は次のとおりです。
既存製品:月9,000万円 × 6か月 = 5.4億円新製品:月1,000万円 × 5か月(11月〜3月)= 0.5億円1. 既存製品の売上は、上期の月平均(9,000万円)が下期も続く
2. 主要顧客A社の発注量は上期並み
3. 新製品は11月1日に発売し、初月から月1,000万円売れる
4. 価格改定はない
5. 下期に営業担当を2名採用する(売上への影響は見込んでいない)
数字と前提はすべて説明用の架空例です。
書き出してみると、3番の「初月から月1,000万円」って、ちょっと強気かもしれませんね。数字だけ見ていたときは気づきませんでした。
そう、前提を言葉にするだけで見えてくることがある。この一覧ができれば、AIにも点検してもらえるよ。
AIには「慎重なレビュアー」になってもらう
前提の一覧ができたら、03で作った型を使ってAIに渡します。今回の役割は「答えを出す人」ではなく、見通しを厳しめにチェックするレビュアーです。
【目的】下期の売上見通しを経営会議に出す前に、前提の弱いところを洗い出したいです。
【材料】
・下期売上見通し:5.9億円(既存製品5.4億円+新製品0.5億円)
・上期の売上:月平均9,000万円。ただし8月にA社の大型案件(一時的)が含まれる
・前提一覧:(02の1〜5をそのまま貼る)
【ルール】
・前提ごとに、気になる点と、担当部門に確認すべき質問を書くこと
・見通しの数字を自分で作り直さないこと
・断定せず、「可能性がある」という書き方にすること
・一覧に書かれていないが、確認したほうがよい前提があれば最後に挙げること
【形式】
・表にする。列は「前提」「気になる点」「確認する質問」
返ってくる表は、たとえば次のようなものです。
| 前提 | 気になる点 | 確認する質問 |
|---|---|---|
| 1. 既存製品は月9,000万円が続く | 上期の平均に、8月の一時的な大型案件が含まれている可能性がある | 大型案件を除いた月平均はいくらですか? |
| 2. A社の発注は上期並み | 大型案件が繰り返す前提になっていないか | A社の下期の発注予定は、どこまで確定していますか? |
| 3. 新製品は11月発売・初月から満額 | 発売の遅れや、立ち上がりに時間がかかる可能性がある | 発売日は確定ですか? 初月の販売計画の根拠は? |
| 4. 価格改定はない | 原材料高などで値上げや値引きの予定がある可能性 | 下期に価格を見直す予定や検討はありますか? |
| (一覧にない前提) | 年末や年度末の季節的な売上の増減が考慮されていない可能性 | 過去の下期で、月ごとの売上に偏りはありましたか? |
上の表も説明用の架空例です。AIは前提一覧と材料だけを見て指摘しているので、指摘が当たっているかどうかは、担当部門に確認して初めて分かります。
1番の「大型案件を除いた月平均は?」は、自分では思いつきませんでした。上期の数字をそのまま下期に伸ばしていたんですね。
そういう「当たり前に置いていた前提」を、遠慮なくつついてくれるのがAIのいいところ。社内の人だと、部門の数字に正面から突っ込むのは気をつかうからね。
前提を動かして、見通しに「幅」を持たせる
点検で弱いと分かった前提は、一つの数字に決め打ちせず、シナリオとして幅を持たせます。どの前提を動かすとよいかはAIに相談できますが、計算はExcelで行います。
| シナリオ | 動かした前提 | 下期売上(Excelで計算) |
|---|---|---|
| 慎重 | 新製品の発売が1か月遅れる(4か月分)。既存製品が3%減る | 約5.64億円 |
| 標準 | 前提一覧のとおり | 5.9億円 |
| 強気 | 新製品が月1,200万円売れる。既存製品は前提どおり | 6.0億円 |
慎重シナリオは、既存製品5.4億円×97%=約5.24億円と、新製品1,000万円×4か月=0.4億円の合計です。強気シナリオは、5.4億円と1,200万円×5か月=0.6億円の合計です。どの前提がどれだけ効くかが見えると、経営会議で「どこを注視すべきか」を説明しやすくなります。数字はすべて説明用の架空例です。
AIの「楽観的すぎる可能性がある」という指摘は、確認のきっかけであって結論ではありません。前提を変えるかどうかは、部門に確かめた事実と会社の判断で決めます。また、未公表の業績見通しは、社内でも特に機密性の高い情報です。02で見たとおり、会社が認めたAIサービスとルールの範囲でだけ扱いましょう。
5.9億円の一本だけじゃなく、「新製品の発売時期しだいで5.64億円から6.0億円」と言えれば、会議でもずっと説明しやすいです!
そう。見通しを「当てる」より、どの前提が動いたら数字がどう変わるかを先に示しておく。それがFP&Aの見通しの価値だよ。
ひとつ確認:AIが「この前提は楽観的です」と指摘したら、その場で見通しの数字を下げるべき?
いいえ。指摘は確認のきっかけです。担当部門に根拠を確かめ、必要なら前提を見直します。迷う前提は、シナリオとして幅を示す方法もあります。
見通しの精度を上げる近道は、AIに数字を当ててもらうことではなく、前提を言葉にして、AIと一緒に点検することです。前提を一覧にし、弱いところを確かめ、シナリオで幅を示す。これで見通しは「当たり外れの数字」から「判断の材料」に変わります。次回は、01〜05をふまえて、毎月の予実サイクルのどこにAIを組み込むかを一枚の流れにまとめます。