FP&A AI Notes

Finance人材のためのAI /Tech実務ノート

見通しの“前提”をAIと点検|はじめてのFP&A×AIノート 05



前回は、終わった月の差異について「なぜ」をAIと一緒に掘り下げました。今回はその反対側、これから先の数字です。下期の見通し(フォーキャスト)を作るとき、AIをどう使えばよいのでしょうか。ポイントは、AIに数字を予測させるのではなく、見通しを支える「前提」の点検役になってもらうことです。

この記事で見ること

見通しの数字は、いくつもの前提を積み上げてできています。その前提を一覧にし、AIに「抜け」や「楽観的すぎる点」を指摘してもらい、確認すべき質問を整理します。数字を決めるのは、あくまで会社とFP&A担当者です。

01 / つまずきどころ

見通しがずれる原因は、数字より「前提」にある

ミサキ
ミサキ

下期の見通し、各部門から集めた数字を足して出しました。でも上期は、見通しと実績が毎月ずれていて……。AIに予測してもらったほうが当たりますか?

リト
リト

ミサ、AIは会社の受注状況も、新製品の開発の進み具合も知らないんだ。それより、集めた数字の裏にある「前提」を一つずつ見直すほうが効くよ。

見通しの数字は、「新製品は11月に発売される」「主要顧客の発注は上期並み」といった前提の上に成り立っています。数字だけを見ていると、どの前提がずれたのかが分からず、毎月同じずれを繰り返してしまいます。

前提の種類 部門から届く形 点検のポイント
販売数量 「月○○個」 上期の実績や、受注の積み上がりと合っているか
販売単価 「価格改定なし」 値引きや原材料高による値上げの予定はないか
新製品・新規案件 「11月から月○○万円」 発売日は確定か、初月から満額で売れる前提になっていないか
費用・人員 「下期に2名採用」 採用の時期、入社までの費用の発生時期
為替など外部要因 書かれていないことが多い 会社としてどの前提で置くか決まっているか
02 / 前提を書き出す

まず「前提の一覧」を作る

AIに点検してもらう前に、見通しの前提を文章で書き出します。部門から届いた数字に、「この数字は何を前提にしていますか?」と一言添えて聞くだけでも、前提の一覧が集まります。

架空例:下期(10月〜3月)売上見通しの前提一覧

見通し合計は5.9億円。内訳は次のとおりです。

既存製品:月9,000万円 × 6か月 = 5.4億円新製品:月1,000万円 × 5か月(11月〜3月)= 0.5億円
【前提一覧】
1. 既存製品の売上は、上期の月平均(9,000万円)が下期も続く
2. 主要顧客A社の発注量は上期並み
3. 新製品は11月1日に発売し、初月から月1,000万円売れる
4. 価格改定はない
5. 下期に営業担当を2名採用する(売上への影響は見込んでいない)

数字と前提はすべて説明用の架空例です。

ミサキ
ミサキ

書き出してみると、3番の「初月から月1,000万円」って、ちょっと強気かもしれませんね。数字だけ見ていたときは気づきませんでした。

リト
リト

そう、前提を言葉にするだけで見えてくることがある。この一覧ができれば、AIにも点検してもらえるよ。

03 / 点検してもらう

AIには「慎重なレビュアー」になってもらう

前提の一覧ができたら、03で作った型を使ってAIに渡します。今回の役割は「答えを出す人」ではなく、見通しを厳しめにチェックするレビュアーです。

前提点検のプロンプト(架空の数字入り)
【役割】あなたは、事業会社の見通しをレビューする慎重な経営企画の担当者です。

【目的】下期の売上見通しを経営会議に出す前に、前提の弱いところを洗い出したいです。

【材料】
・下期売上見通し:5.9億円(既存製品5.4億円+新製品0.5億円)
・上期の売上:月平均9,000万円。ただし8月にA社の大型案件(一時的)が含まれる
・前提一覧:(02の1〜5をそのまま貼る)

【ルール】
・前提ごとに、気になる点と、担当部門に確認すべき質問を書くこと
・見通しの数字を自分で作り直さないこと
・断定せず、「可能性がある」という書き方にすること
・一覧に書かれていないが、確認したほうがよい前提があれば最後に挙げること

【形式】
・表にする。列は「前提」「気になる点」「確認する質問」

返ってくる表は、たとえば次のようなものです。

前提 気になる点 確認する質問
1. 既存製品は月9,000万円が続く 上期の平均に、8月の一時的な大型案件が含まれている可能性がある 大型案件を除いた月平均はいくらですか?
2. A社の発注は上期並み 大型案件が繰り返す前提になっていないか A社の下期の発注予定は、どこまで確定していますか?
3. 新製品は11月発売・初月から満額 発売の遅れや、立ち上がりに時間がかかる可能性がある 発売日は確定ですか? 初月の販売計画の根拠は?
4. 価格改定はない 原材料高などで値上げや値引きの予定がある可能性 下期に価格を見直す予定や検討はありますか?
(一覧にない前提) 年末や年度末の季節的な売上の増減が考慮されていない可能性 過去の下期で、月ごとの売上に偏りはありましたか?

上の表も説明用の架空例です。AIは前提一覧と材料だけを見て指摘しているので、指摘が当たっているかどうかは、担当部門に確認して初めて分かります。

ミサキ
ミサキ

1番の「大型案件を除いた月平均は?」は、自分では思いつきませんでした。上期の数字をそのまま下期に伸ばしていたんですね。

リト
リト

そういう「当たり前に置いていた前提」を、遠慮なくつついてくれるのがAIのいいところ。社内の人だと、部門の数字に正面から突っ込むのは気をつかうからね。

04 / 幅を持たせる

前提を動かして、見通しに「幅」を持たせる

点検で弱いと分かった前提は、一つの数字に決め打ちせず、シナリオとして幅を持たせます。どの前提を動かすとよいかはAIに相談できますが、計算はExcelで行います。

シナリオ 動かした前提 下期売上(Excelで計算)
慎重 新製品の発売が1か月遅れる(4か月分)。既存製品が3%減る 約5.64億円
標準 前提一覧のとおり 5.9億円
強気 新製品が月1,200万円売れる。既存製品は前提どおり 6.0億円

慎重シナリオは、既存製品5.4億円×97%=約5.24億円と、新製品1,000万円×4か月=0.4億円の合計です。強気シナリオは、5.4億円と1,200万円×5か月=0.6億円の合計です。どの前提がどれだけ効くかが見えると、経営会議で「どこを注視すべきか」を説明しやすくなります。数字はすべて説明用の架空例です。

① 前提を一覧にする部門から届いた数字の裏にある前提を、言葉で書き出す
② AIに点検してもらう気になる点と確認する質問を表にしてもらい、部門に確かめる
③ シナリオで幅を示す弱い前提を動かした場合の数字をExcelで計算し、幅として示す

AIの「楽観的すぎる可能性がある」という指摘は、確認のきっかけであって結論ではありません。前提を変えるかどうかは、部門に確かめた事実と会社の判断で決めます。また、未公表の業績見通しは、社内でも特に機密性の高い情報です。02で見たとおり、会社が認めたAIサービスとルールの範囲でだけ扱いましょう。

ミサキ
ミサキ

5.9億円の一本だけじゃなく、「新製品の発売時期しだいで5.64億円から6.0億円」と言えれば、会議でもずっと説明しやすいです!

リト
リト

そう。見通しを「当てる」より、どの前提が動いたら数字がどう変わるかを先に示しておく。それがFP&Aの見通しの価値だよ。

ひとつ確認:AIが「この前提は楽観的です」と指摘したら、その場で見通しの数字を下げるべき?

いいえ。指摘は確認のきっかけです。担当部門に根拠を確かめ、必要なら前提を見直します。迷う前提は、シナリオとして幅を示す方法もあります。

見通しの精度を上げる近道は、AIに数字を当ててもらうことではなく、前提を言葉にして、AIと一緒に点検することです。前提を一覧にし、弱いところを確かめ、シナリオで幅を示す。これで見通しは「当たり外れの数字」から「判断の材料」に変わります。次回は、01〜05をふまえて、毎月の予実サイクルのどこにAIを組み込むかを一枚の流れにまとめます。